楽隊の音がきこえてきた。ジンタッ、ジンタッ、ジンタッタッ・・・
ジンタの楽隊がやってきたのだ!
子どもたちは、小鹿のようにかけだした。ジンタの行進は、となりの町の沼津から三島の町へのりこんできた。
小出正義
穂積 忠
関こゆる日は雨降りて、山皆雲にかくれたり。
霧しぐれ 富士を見ぬ日ぞ 面白き
宿はづれを清らかな川が流れ、其処の橋から富士がよく見えた。
沼津の自分の家からだとその前山の愛鷹山が
富士の半ばを隠してゐるが、三島に来ると愛鷹はずっと左に寄って、富士のみがおほらかに仰がるるのであった。
この湧水というのが、なんともいえずおかしみがある。むかし富士が噴火してせりあがってゆくとき、溶岩流が奔って、いまの三島の市域にまできて止まり、冷えて岩盤になった。
水底にしづく圓葉の青き藻を
差し射る光のさやかに照らす
窪田空穂
司馬遼太郎
若山牧水
松尾芭蕉
井上 靖
太宰 治
三島の町に入れば 小川に菜を洗ふ女のさまも やや なまめきて見ゆ
面白や どの橋からも 秋の不二
日も暮れに近づき、入り相の鐘かすかに響き、鳥もねぐらに帰りがけの駄賃馬追ったて、とまりを急ぐ馬子唄のなまけたるは、布袋腹の淋しくなりたる故にやあらん。
このとき、ようやく三島の宿へとつくと、両側よりよびたつる女の声々・・
大岡 信
正岡子規
十辺舎一九
三島町へ行くと道の両側に店舗が立ちならび、町の中央に映画の常設館があって、その前には幟旗が何本かはためいていた。私たち山村の少年たちは、ひとかたまりになり、身を擦り合わせるようにくっつき合って、賑やかな通りを歩いた。
町中を水量たっぷりの澄んだ小川がそれこそ蜘蛛の巣のやうに縦横無尽に残る隈なく駆けめぐり、清冽の流水の底には水藻が青々と生えて居て、家々の庭先を流れ、縁の下をくぐり、台所の岸をちゃぶちゃぶ洗ひ流れて、三島の人は台所に座ったままで清潔なお洗濯が出来るのでした。
宗 祇
町なかに 富士の地下水 湧きわきて 冬あたたかに こむる水靄
地表の七割は水
人体の七割も水
われわれの最も深い感情も思想も
水が感じ 水が考へてゐるにちがいない
すむ水の 清きをうつす 我が心