火の玉不動尊・お女郎地蔵尊説明
お女郎地蔵
昔、大宮宿に柳屋という旅籠があり、この柳屋には、千鳥、都鳥という姉妹がいて旅人の相手をしていた。この姉妹は親に捨てられ、宿の人に拾われ育てられてきた。その養い親が長患いで先立ち、借金だけが残っていた。この借金のため姉妹は、柳屋に身を沈めたのであった。美しい姉妹は、街道筋の評判となり、男冥利には、一夜なりとも仮寝の床を共にしたいと思わぬものはなかったと。そんな数ある男の中で、宿場の材木屋の若旦那と姉の千鳥が恋仲になり、末は夫婦にと固い約束を交わしたが、当時、悪名高い大盗賊神道徳次郎が千鳥を見染め、何が何でも身請けするという話になってしまった。柳屋の主人は、材木屋の若旦那のことを知っていたので、返事を一日延ばし、二日延ばしにしていたが、業を煮やした悪党徳次郎は、宿に火を付けると凄んできた。千鳥はこれを知って、主家に迷惑は掛けられず、さりとて徳次郎の言いなりにもなれず、思い余って高台橋から身を投じてしまった。その頃から高台橋辺りに千鳥の人魂が飛ぶようになり、哀れに思った近くの人々がその霊魂を慰めるために、「お女郎地蔵」
を建てたのだと言われている。
火の玉不動尊
その頃、高台橋付近をふわふわと飛ぶ火の玉を人々は見たが、それは神道徳次郎に見染められ、進退極まって高台橋から投身し果てた遊女千鳥の霊魂だという噂もあれば、実は傍らにあった石の不動明王の仕業だという話もあった。毎夜のように高台橋周辺に火の玉が飛ぶので、その正体を見極めるために多くの力自慢や腕利きが出掛けたものの、どうも気味が悪く近づけなかった。ある夜、一人の男が、小雨の降る中を松の陰に潜んでいると、深い谷あいから、例の火の玉がふわりふわりと尾を引いて流れるように飛んできた。男がその火の玉に無茶苦茶に斬りつけると、「キャー」 と声がして消えてしまった。火の玉が消えた暗がりをじっと見据えると、物凄い形相の男が立っていた。おそるおそる正体を尋ねると 「俺は不動明王だ」 と名乗り、「お前に剣を切り落とされた。」 と言って消えてしまった。翌日、この話を聞いた人達が、高台橋に行って見たら、なるほど石の不動様が怖い顔をしていたが、剣は持っていなかった。そこで人々はこの不動様を 「火の玉不動」
と呼んだという。因みに、「お女郎地蔵」 の伝説に登場し、数々の悪行を重ねた神道徳次郎は寛政元年(1789)この高台橋傍らの刑場の露と消えた、と伝えられている。
火の玉不動尊(左)、お女郎地蔵尊(右)